先日、青色LED訴訟で有名になった中村さんが、ノーベル化学賞を受賞しましたね。
あの訴訟は日本では珍しい高額訴訟だったので、覚えています。
感情を隠そうとしなかったあの会見も。
こういう研究者もいるんだなぁという印象でしたね。
ほうほう、日本もアメリカと同じような訴訟をする時代になったか、とも思った記憶があります。
興味はありつつも訴訟の詳細はよく知らなかったのですが、いい機会かと、訴訟の顛末を今更ながら調べてみました。
まず、個人的な印象として、青色LED全般の訴訟というイメージがあったのですが、それは違いました。
前提として、青色LEDの原理的な確立は、同じくノーベル賞を受賞した赤崎氏と天野氏によって成されたこと。まずこれがひとつ。
また、訴訟で争われたのは俗に404特許と呼ばれる1件だけの特許に関してで、他の青色LEDの製造に関する特許に関しては争われていなかったこと。
この2点が大事ですね。
そして、知らなかったのですが、上の404特許というのは実際の量産化の際には使われなかったこと。
訴訟としてはこれが一番大事かもしれません。
訴訟としては、要は会社にいくら利益をもたらしたか、というのが最大の争点になるからです。
中村さんのブレイクスルーは非常に重要で、以後の製造特許に影響を与えているのは間違いないのですが、直接的に404特許が会社に利益をもたらしたわけではないということには留意しなければなりません。
そこで1審である地裁の出した604億円という数字がどうであったかと考えると、これはおかしいな、というのが率直な感想です。
この計算には、他の方法で量産化を果たした競合他社の分も、ライセンス供与したと仮定して算定しているのですが、これがどう考えてもおかしい。
日亜も量産化には404特許を使用しなかったのですが、他社は当然ながら、404特許を含む日亜が持つ特許群を回避して量産化を研究します。
実際、研究して量産化を果たしました。
昔、プロジェクトXでコピーに関する特許回避について描いた回がありましたが、そういうことは開発においては日常茶飯事です。
独占的な技術ライセンスは当然高く、その供与を受けていたのでは、利益が上がらないからです。
しかし、訴訟ではこれが仮定として算入されました。
ブレイクスルーに対する影響度や貢献度の評価は人によってそれぞれだと思いますが、日亜ですら使用しなかった特許のライセンス料を仮定するというのは、ちょっとありえない算定だと思います。
2審の高裁が提示した8億円での和解は、そういった意味では他の200弱の特許の譲渡を含んでおり、まぁ妥当ではないかと思われるところでしょうか。
もちろん人によって評価の大小は変わってくるとは思いますがね。
それと、日亜の競合他社となるCree社の子会社と中村さんは契約を結んでいたという事実があります。
この事は、単純な職務発明に対する評価に関する訴訟というよりは、政治的な特許争奪の匂いのする訴訟という雰囲気が感じられます。
あと、この訴訟に関して議論になるのは、研究者の待遇ですね。
研究者の待遇には、大きく2通りあります。
給与が安いかわりに無期雇用で安定している場合。
もうひとつが、話題になった理研のように、給与や待遇は良いが有期で結果を出さなければ契約満了となってしまう場合。
中村さんの場合は、間違いなく前者です。
そして、これは日本だけではなく海外でも前者は功績に対する褒賞は微々たるものだそうです。
何故なら、そういう契約だから。
まぁリスクの取り方ですよね。
これに照らし合わせると、中村さんは両方の良い所を取ろうとしたようにも思えます。
前者は功績に対してリターンが少ないようにも思われますが、功績のある研究者というのは他の研究機関へのキャリアアップもし易く、ベンチャーを立ち上げる場合でも融資を受けやすいでしょう。
実際、中村さんもアメリカからお呼びが掛かったわけですし。
日本の雇用契約というのは成文化されていない部分も多く、中村さんはその部分を突いた感がありますね。
しかし、これ以降、特許は会社に所属すると雇用契約において明文化されたようです。
難しい問題ですね。
民間の研究者は会社に所属して研究に資金を投じてもらわないと研究できないし、会社は有能な研究者に結果を出してもらわないと新しい製品が開発できない。
鶏と卵の関係です。
どちらが先と言う話ではないだけに、難しい。
ただ、訴訟云々関係なく、中村さんのブレイクスルーは非常に大きな功績だったことは間違いないです。
この部分だけは、訴訟と一緒くたに論じるべきではないですね。
訴訟は訴訟、功績は功績。
それはそれ、これはこれ、ですな。
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