2015年10月24日土曜日

乃井野陣屋

先日、神戸新聞に兵庫県の史跡として乃井野陣屋が載っていました。
乃井野陣屋と聞いてもピンと来ませんが、藩としては三日月藩という風流な名前の藩の陣屋ですね。
この陣屋、三日月という名前に惹かれて予備知識も無く寄ってみた事があるんですが、陣屋としては恐ろしく風格があります。
岡山の成羽陣屋の重厚な石垣も陣屋としては破格でしたが、この乃井野陣屋には、堀があり、橋が架かり、櫓門があります。
どう見ても近世城の風格。
上月城などにちょっと寄った時に、寄り道しても損はありません(^^)

陣屋というのは平地に造られる事が多く、維新後は中心部の平地ということで行政施設の用地や学校施設なんかに使われ、遺構がほとんど残っていないという所がほとんどです。
なので、乃井野陣屋のように丁寧に整備されているのは珍しい。
ちなみに、城と陣屋の違いというのは不鮮明で、いかにも城という構えでも藩が小さければ陣屋ですし、居館城郭でも藩が大きければ城と呼ばれます。
江戸時代には、城というのは名誉呼称で、城持ち大名というのはステータスでした。
その上が国持ち大名、もしくは国主と呼ばれる大名で、これは戦国時代に名を成した戦国武将の家がほとんどです。
で、三日月藩はと言うと、当然ながら陣屋ですから無城大名でした。
三日月藩の藩主は森氏です。
その祖は、と言うと、鬼武蔵として名を馳せた森長可、そしてその父の可成の2代が中興ということになるでしょうか。
系譜としては、美濃森氏の一族で、美濃守護の土岐氏に仕えていました。
土岐氏の滅亡後、やがて可成は信長に仕え、尾張統一戦、桶狭間の合戦、上洛戦など、信長の合戦にほぼすべて参陣し、度々武功を挙げています。
信長は門地に囚われず、実力主義で家臣を登用しましたが、可成は織田家としては外様であり、その政策の最初期の家臣だったのでしょう。
その証拠に、上洛以降は近江宇佐山城を任されました。
当時は、近江から京へ入るルートは、坂本から峠越えで入るのが一般的で、その非常に大事な街道を押さえる城が宇佐山城であり、そこを任されていたわけですから、信頼振りが窺えます。
ちなみに、後に天下人となった秀吉は、東からの入京路は瀬田川宇治川ルートを使い、その京の入口である伏見に居城を築いていました。
また、大阪に出るにも木津川淀川ラインで行き来できますから、非常に便利ですね。
街道を押さえる城というのは多いですが、京周辺の城には、特にそういう政治的役割があるんですね。
で、宇佐山城を任された可成ですが、元亀元年(1570)の織田浅井手切れ後の姉川の合戦の直後、浅井朝倉連合軍の進出を寡兵でもって迎撃し、奮戦するも下坂本で討死しました。
信長は可成の死を非常に悼んだといいます。
可成には、森蘭丸、坊丸、力丸の幼い子がおり、信長が小姓に取り立てるわけですが、それも可成の死を哀れんだ為といわれますね。

森家は、嫡子可隆は越前攻めの際に討死していたので、次男長可が家督を継ぎました。
この武将が鬼武蔵と呼ばれた人物です。
当時の鬼という異名は、強いと同義で、戦に強ければ鬼○○と呼ばれました。
有名な所では、鬼の半蔵、鬼島津、鬼和子。
丹波は多くて、丹波鬼、丹波の赤鬼、青鬼。
挙げればキリがないですが、長可の何が鬼かって、その所業がリアルで鬼。
強いじゃなくて鬼なんですね。
合戦にも強いが、気性も恐ろしく激しかった。
そして敵対者には容赦ない・・・
ま、その辺りのネタは幾らでも出てくるので置くとして、長可は順調に織田家中の上級家臣となり、本能寺の変の直前には信濃川中島周辺の20万石の大名になりました。
信長横死後は美濃へ帰って東美濃を席巻し、後継者レースでは岳父である池田恒興と共に秀吉に味方しましたが、小牧長久手の合戦で岳父と共に討ち死にしてしまいます。
まだ27歳。
嫡子もおらず、長可も遺領は信頼できる人に任せると遺言状に書いていたんですが、秀吉の裁量で家督は末弟の忠政に引き継がれました。
普通は何としても家の存続を図るのが武士の宿命ですが、何とも変わった人だったんですねぇ

こんなひと悶着を挟みつつ、忠政が森家を存続させ、やがて江戸時代には川中島藩主、そして津山藩主となって森氏の藩祖となります。
ただ、この忠政も性格的に難があったのか、兄長可に似た部分があって、逸話には事欠きません。
また、津山藩でもやたら刃傷沙汰が多い。
可成は三国志の超雲のような正統派猛将の匂いがするんですが、長可や忠政は非常に扱い難い印象がありますね。
一部にネタになっている森氏のややこしいイメージも、この兄弟に由来する部分が多そうです。

森氏はちょっとネタが多いのか、乃井野陣屋に辿り着かないまま、長くなってしまいました。
というわけで、次回へつづく。
 
参考:
乃井野陣屋
地図付きはこちら
 

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